国際派行政学者の挑戦

慶應SFCの教員。才能ないなりに世界レベルの行政学者を目指す40代独身男(負け組)のブログ -月1回ぐらい更新-

真似できない傑作のイントロ

逆襲を高らかに宣言した論文ですが(過去記事)、ようやくデータ分析を理論と繋げて文章にする段階に入りました。最近怒涛の如く日本人研究者が有名行政ジャーナルに論文を掲載しており、焦りまくっています(((;゚д゚)))ガクブル (参照:行政研究のフロンティア - 日本人国際論文)。とはいえ、自分の発見が価値あると学術誌の審査員に納得してもらうために、既存の理論に依拠するだけでなく、独自性や新しさが感じられる文章にする必要があり、それはある程度時間のかかる作業です。

特に重要なのはイントロ(Introduction)と呼ばれる論文の書き出し1~2ページで、デスク審査から本審査(査読)に回すかの判断は、主にイントロで判断されると聞きます(参考記事)。素晴らしい本や論文のイントロは、驚くほどに読み手の興味を引き、その中心的テーマの重要性や面白さを『重要』とか『面白い』という言葉なしに感じさせます。といことで、今回は自分が好きなイントロBest 3をご紹介させて頂きます!

 

まずは、ノーベル経済学賞受賞 Douglass C. North先生の名著『Institutions, Institutional Change and Economic Performance』(和訳:『制度、制度変化、経済成果』)から:

"Institutions are the rules of the game in a society or, more formally, are the humanly devised constraints that shape human interaction. In consequence they structure incentives in human exchange, whether political, social, or economic. Institutional change shapes the way societies evolve through time and hence is the key to understanding historical change."

最初の段落に、この本が語る深淵なるテーマが詰まっている...今度の論文はNorth先生の理論を応用させて頂きますm(_ _)m

 

次に、政治学ノーベル賞があれば受賞間違いなしRobert D. Putnam先生の名著『Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community』より:

"NO ONE IS LEFT from the Glenn Valley, Pennsylvania, Bridge Club who can tell us precisely when or why the group broke up, even though its forty-odd members were still playing regularly as recently as 1990, just as they had done for more than half a century. The shock in the Little Rock, Arkansas, Sertoma club, however, is still painful: in the mid-1980s, nearly fifty people had attended the weekly luncheon to plan activities to help the hearing- and speech-impaired, but a decade later only seven regulars continued to show up."

North先生とは対照的に、具体的な話で、本の中心的テーマを語ってくるパターン。タイトルも素晴らし過ぎる...

 

最後に、言わずと知れた日本文学の金字塔から:

”吾輩は猫である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。"

漱石先生~~~~~~(T0T) あなたは日本の誇りです。こんなの絶対読んじゃうでしょう!猫が『吾輩は』と語り出すってどういう発想ですか!?

 

まだまだ修行が必要ですが、こんな読み手を惹きつけるイントロをいつか書いてみたいです。もちろんイントロに続く内容が素晴らしいから、名著と呼ばれるわけで、書き出しだけ良くても読み手をガッカリさせるだけですが... 面白く書こうという気概だけは忘れずにいたいと思います。