国際派行政学者の挑戦

慶應SFCの教員。才能ないなりに世界レベルの行政学者を目指す40代独身男(負け組)のブログ -月1回ぐらい更新-

行政学の起源論争:アメリカ vs. ドイツ vs...

Woodrow Wilson(1856-1924)といえば、国際連盟創設に寄与したアメリカ合衆国第28代大統領として有名ですが、アメリ政治学会会長及びプリンストン大学学長まで務めたWilsonの学術的貢献、特に行政学創始者としての側面を知る人は少ない印象です。Wilsonは1887年に著した『The Study of Administration』の中で、政治行政二分論(politics-administration dichotomy※)を唱え、選挙に当選した政治家が支援者を公務員として雇うような慣習(猟官制 spolis system)を排除し、能力に基づき公務員を選抜し(merit system)、公務員は科学に基づき政策・行政サービスの効率的な執行を目指すべきと議論しました。アメリカ行政大学院では、「専制政治下ではなく、民主主義における行政研究の必要性を説いた萌芽的論文はこれだ!」と教えられました。※Wilson本人ではなく、後の行政学者が名前を付けた。

 

ほぼ同時期に、これまた有名なドイツの社会学Max Weber(1864-1920)も、1921年に出版された著書『Economy and Society』の中で、能力主義で公務員を採用し、職務が政治的ではなく専門的に分業され、上下関係で一貫した指揮命令系統(hierarchy)を持つ官僚制を組織の理想形として論じました。少し変だなと思われた方もいるかもしれませんが、上記の著書はWeberの死後に出版されています。Weberのドイツ語で書かれた著書の社会学的秀逸さは、アメリカの研究者により見出され、その後ヨーロッパに逆輸入されたと...大陸を超えて認識されているようです(Cuff 1978)。

 

アメリカでは、「接点のないWilsonとWeberが、似たような考えを偶然同時期に思いついたのは面白い!」とか教えられました。この種の講義には、「Weberを見つけたのはアメリカ人だけどね」というヨーロッパへのマウンティングが漏れなく付いていましたw ところが、最近twitter上で、アメリカで職を得たヨーロッパ出身の若手行政学者が、「ヨーロッパでは、2人ともドイツの哲学者George W.F. Hegelを参考にしたから似ていると教わるのに...アメリカに来てビックリ!」とtweetしたことを発端に、そこから著名なヨーロッパの行政学者たちが、こぞって「HegelがいなければWilsonの論文もなかった!」(Sager & Rosser 2009)という趣旨のリプライをしていました(☆。☆) つまり、現代行政学の発祥の地は、ドイツだと主張しているわけですw さらに、ややこしいことに、イギリスの行政学者が、「王制下にあっても、多くの国で民主的官僚制の学問的萌芽があったはず!」と応戦... よく調べればイギリスに現代行政学の基礎があったはずと言いたい模様www

 

国の威信をかけた各国行政学者による終わりのない起源論争も、多くの読者の方にとって滑稽に映るかもしれませんが、この論争に10年後ぐらいには加わりたいと密かに野心を燃やす行政学者が日本にいることを、心にとどめて頂けたら幸いですwww どんなこじつけをするかは、後のお楽しみです( ̄ー+ ̄)キラーン

Cuff, Robert D. 1978. Wilson and Weber: Bourgeois Critics in an Organized Age. Public Administration Review 38(3): 240-44.

Sager, Fritz., and Christian Rosser. 2009. Weber, Wilson, and Hegel: Theories of Modern Bureaucracy. Public Administration Review 69(6): 1136-1147.