国際派行政学者の挑戦

慶應SFCの教員。才能ないなりに世界レベルの行政学者を目指す40代独身男(負け組)のブログ -月1回ぐらい更新-

倫理と行政:楽観主義も必要

最近日本では官僚の不適切な忖度、統計不正、裏口入学関与など残念なニュースがメディアを騒がせており、「日本の官僚は倫理観が欠如している!」と叩かれているのですが、そもそも行政官に求められる倫理って何なの?...という疑問を持ったりしないでしょうか(^ ^; たまには役に立ちそうなことも書いてみようと、今週は20世紀半ばに活躍した行政学Paul H.  Appleby先生が提示した公務員倫理の規範モデルを紹介したいと思います!

 

倫理なんてなんか難しそうな響きですが...実際に倫理や哲学関連の文献を読むのは非常に難しいです(´Д`) ここではAppleby規範モデルに対するBailey(1964)の簡単な解説を引用したいと思います。余談ですが、Appleby先生は自分が行政学修士を取得したシラキュース大学マクスウェル行政大学院の2代目Dean(大学院長)で、Bailey先生は4代目Deanです。

 

下記の通りApplebyモデルにおいて、公務員個人の倫理は2つの要素(Mental Attitudes & Moral Qualities)から構成され、2つの要素はさらに細かい3つの要素から構成されています。

行政における個人向け倫理の規範モデル A Normative Model for Peronsal Ethics:

1. 心構え Mental Attitudes

(1) 道徳の曖昧さを認識すること

(2) 道徳的価値の優先順位は状況に応じて変化することを認識すること

(3) 規則・手続きのパラドックスを認識すること

公平性、透明性、説明責任を確保するために規則は必要だけど、規則が多すぎると、市民からの新たな需要に対応したり、新しい技術を利用した政策・サービスの開発が遅れたりするジレンマのことです。

2.道徳的資質 Moral Qualities

(1) 楽観主義 Optimism

行政倫理の1要素として、これを挙げると公務員に厳しい日本国民の皆様には怒られそうですが、上記"心構え"を踏まえると、道徳は「こうあるべき!」なんて決められるものじゃないし、状況によって道徳的価値の優先順位も変わるし、規則を作りすぎても行政組織が効率的に運営できないから、悩みすぎず楽観的な要素も必要だよ!ということだと自分は解釈しています。Bailey先生は、さらに楽観主義が必要な理由として、"Organic aging and the disappointment and disaffections of experience often derive of mature individuals of the physical and psychic vitality"なんて解説していて、年齢を重ねたり、失望や不満を感じると、公務へのやる気をなくしがちだから、楽観主義は道徳的であり続けるために、必要な生活スタイルだと書かれています。

(2) 勇気 Courage

Appleby先生は、ときに人間味なく公私を区別する勇気、専門家に流されず社会全体の利益を考える勇気、そして決断する勇気の3つを挙げています。

(3) 公平性 Fairness

公平であるためにcharity(慈善の心)が必要とのことですが...キリスト教、特にプロテスタントの教義に疎い自分には解釈が難しいです。ここは、日本的な道徳観の歴史的ルートを探る余地がありそうです。

 

ということで、今週は真面目に「公務員個々人が持つべき倫理とは何か」について、行政学の古典をもとに紐解いてみました。「公務員はこうあるべきだ!」なんていうテレビ解説者みたいなことは言えませんが、皆様が行政に必要とされる倫理を考える際のお役に立てたら嬉しいですm(_ _)m

 

参考文献:

Bailey, Stephen K. 1964. Ethics and the public service. Public Administration Review 24(4): 234-243.