国際派行政学者の挑戦

慶應SFCの教員。才能ないなりに世界レベルの行政学者を目指す40代独身男(負け組)のブログ -月1回ぐらい更新-

信頼は得難く失われやすい

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この夏は、Trust in Government (市民の政府に対する信頼) というテーマで論文に取り組んでいます。具体的には、Trsut is hard to gain but easy to lose (信頼は得難く失われやすい) という心理学の実験から導き出された信頼のasymmetry principle (非対称法則)をもとに、財政破綻など行政の失敗が起きたときの市民の信頼度の変化を論じています。

 

そんな論文のテーマと格闘する日々が続くなか、次々と明るみに出た文部科学省幹部の不祥事には、何ともやるせない気持ちを覚えます (参考ニュース記事)。なぜなら、大多数いる公務員の中の2人の汚職事件であるのに、理論的に公務員全体の信頼度に大きく影響してしまうからです。

 

このような公務員個人の汚職事件の後には、必ず「公務員の規範意識は欠如している!」「文部科学省は解体しろ!」という類の論説が出ます。これは英語でsummation (要約・総和!?)と呼ばれる現象で、公務員は個々人で異なるのに、全体として捉えて議論する傾向を指します。

 

さらに、市民は日々公務を誠実にこなす公務員より、一部の公務員の不祥事に注目し不満を覚える傾向があります。これは英語でgrievance asymmetry (不平・不満の非対称性) と呼ばれ、マスコミは市民の不満を煽ることで部数や視聴率を伸ばしたいので、公務員の不祥事及び批判をより多く報道します。

 

100以上の国と地域において実施されているWorld Values Surveyにおいて、日本国民の公共サービスへの信頼度 (confidcen in civil service)は、OECD諸国内においてチェコギリシャ、メキシコに次ぐ下位という調査結果が出ています。

 

一度失った信頼を取り戻すのは本当に難しいことですが、偏向したイメージや報道によって、公務員に対する低い信頼が維持される負のスパイラルが存在する可能性を、微かな抵抗としてここに書き留めておこうと思います。

 

参考文献

Yang, Kaifeng., and Marc Holzer. 2006. The performance–trust link: Implications for performance measurement. Public Administration Review 66(1): 114-126.